郡上竿と最後の郡上竿職人
ここ最近のマイブームとなっている延べ竿ゲームが飛び火して、郡上の伝統工芸品である「郡上竿」にも興味津々の今日この頃であります。
古くから釣り文化の盛んな郡上には、かつて郡上竿職人が何人も存在し、有名どころの職人と言えば、安田幸太郎氏(安幸)を始め、福手福雄氏(福作)、渡辺安氏(静作)などの職人が互いに切磋琢磨し、今世まで郡上竿を残して来られました。(カッコ内の名称は竿に焼き印として押されていたものです)
グラスやカーボンロッドの普及や加齢に伴って職人も減少し、現在では郡上市美並町在住、御年84歳の福手福雄さんが残された最後の郡上竿職人となってしまいました。
今回は時代の流れに負けず生き続けた最後の郡上竿職人と、美しい郡上竿を紹介します。
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こちらが穂先の調整をする福手福雄氏。84歳の現在も夏は長良鮎の出荷、冬は竿作りと元気いっぱいなおじいさんです。
僕が福手さんの工房を訪れる切っ掛けになったのは、行きつけの居酒屋で最年少の郡上魚籠職人との出会いでありました。まだ24歳の彼に、何処で魚籠作りを習ったのか訪ねると、「中学の頃に不登校になって、近所で魚籠職人をしていた郷戸進さんに学校へ行かない間ずっと習っていた」とのこと。
学校もいかず、勉強もしないまま魚籠職人として成長したワイルドな彼の話はまたどこかで紹介するとして、当時不登校だった彼を温かく迎え入れ、魚籠作りを教えて来た郷戸進氏にとっては可愛くて仕方の無い弟子だったのだろうと思いました。その師弟関係は、昨年亡くなった郷戸進氏を今も尚、敬いの念で溢れる彼の姿を見れば、素晴らしい師弟関係であったことが想像できました。そして郡上人の温かいお話に心もほっこりした僕なのでした。
故・郷戸進氏と福手福雄氏も親しい間柄だったようで、郷戸氏の弟子である彼を福手氏も可愛がっておられました。そういった繋がりがあって今回福手氏の工房にお邪魔し、せっかくなら竿を一本選んで買ってこようと思った訳です。
郡上竿には「鮎竿」「あまご竿」「てんから竿」があり、僕は「あまご竿」を選んできました。今回仲間内で鮎竿とてんから竿も購入したのでいつかまた紹介出来ればと思いますが、今回は僕のセレクトしたあまご竿について説明してみます。(軽めに)
あまご竿の基本の長さは3間(約5.4m)前後で5本継、穂先はスペアを付けてくれます。調子は郡上竿のスタンダードである抜きの胴調子。職漁師が手際良くアマゴを釣る為に尺アマゴも抜ける様な調子になっています。天然素材の為、長さや竿の重心等がそれぞれ異なり、福手氏に何本か選んで頂いた中からお気に入りの長さ、調子の物を選んできました。
竿に入れられた花札の鶴がこれまた渋く、ジャパニーズクラシカル(笑)な郡上竿はとてもかっこ良いですね。
鮎竿になると長さは約7m前後になり、竿も太くかなりゴツくなります。あまご竿は「矢竹」を使うのに対し、鮎竿は竹の種類がまた異なるらしく、竹を採取出来る場所も限られる上に、手間が掛かりすぎて近年では作っていないとの事でした。
特に化粧巻きを施す「巻き竿」が最も手間が掛かるようで、以前鮎竿にどれだけの長さの糸を巻いているか測ったら、900m以上巻いていた(笑)と言ってみえました。
需要としてはてんから竿が一番多く、次にあまご竿、鮎竿という順のようで、てんから竿なら長さ的に竹竿でも実用可能だと思うようです。
穂先は大量にストックされていて、その中からスペアをさっと選んで付けてくれました。スペアの穂先は竹の筒に入れて渡してくれるのも嬉しいところ。
こちらは鮎竿を手に取る福手氏と鮎竿。竿職人になったのは10代の頃で、郡上竿職人として70年近く活躍される大ベテラン。本人曰く、「竿はもう死ぬほど作って飽きたから違うものも作ってみたい」だそうです。笑
福手氏に「フライフィッシングって知っとる?」と訪ねると、「なんやそれ。そんなもんは全然知らんなぁ。どういうもんなんや?」とのお答え。福手氏にとって「魚釣り」とは述べ竿の釣りが全てであって、生涯をその延べ竿作りに注いでいた福手氏の生き様には釣り人として惹かれるものが有りました。
「ルアーはわかりますか?」と訪ねると、ルアーは長良川でもサツキマスを狙ったりしているのを見ているからか何となく知ってみえました。
「僕一応ルアー作ってるんですけど、こう言う道具なんです」と作ったルアーを差し出すと、「これ何で出来とるんや?」「ここの針に魚が食い付くんか?」「なんでこれに魚が食い付くんや?」と興味津々な感じでまじまじと見ておられました。
「バルサという木を削って作ってますから中身は木ですよ」と答えると、アルミ箔とセルロースの塗膜で全然木質感が無いからか、不思議そうな顔をして、「物を作る技術は一度身に付けたら自分のものだからこれからも大事にしなかんよ。」と一言アドバイスをくれました。
福手氏の作る竿は一本一本に個性があって、竿を選ぶのも楽しみの一つに感じました。ショーケースに飾られる郡上竿はどれも輝いていて本当に美しい。
餌箱も作ってみえたので、丁度餌箱が壊れかけだった事もあり購入。「福」の焼き印がなんとも可愛らしいのでお気に入りです。
今年の秋はあまご竿を担いで釣りに出掛けてみたいと思います。
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